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リスキリング補助金を活用しても研修が機能しない会社の共通点

はじめに


Series 5「人材育成の未来と戦略」では、より大きな視座から人材育成のあり方を考えていきます。第1回となる今回は、リスキリング補助金を取り上げます。

国の予算は手厚くなり続けています。経費の最大75%が補助され、訓練時間中の賃金助成まで受けられる制度が、中小企業にも開かれています。にもかかわらず、「補助金を活用して研修をやったが、現場が変わらなかった」という声を、私たちは繰り返し聞いてきました。

制度はある。予算もある。でも研修が機能しない。この矛盾の正体を、構造的に解きほぐします。



リスキリング補助金は手厚くなり続けている


最初に、現在の制度状況を整理します。

リスキリング支援の中核となっているのは、厚生労働省の「人材開発支援助成金(事業展開等リスキリング支援コース)」です。中小企業は経費の最大75%、訓練時間中の賃金1,000円/時の助成を受けられます。1事業所あたりの年度上限は1億円という大規模な制度です。

2026年3月の改正では、対象がさらに拡大されました。これまでは「具体的な事業展開(DX化・新規事業立ち上げ等)に伴う訓練」のみが対象でしたが、改正後は「企業の人事・人材育成計画に基づく訓練」も対象に加わっています。日常的な人材育成の取り組みも、補助の対象になるということです。

加えて、東京都の「DXリスキリング助成金」、地方自治体独自の補助金、IT導入補助金との組み合わせなど、制度の選択肢は年々増えています。

中小企業にとって、研修への投資環境はかつてないほど整っています。

※本記事内の制度詳細は2026年6月時点の情報です。最新情報は厚生労働省および各管轄労働局の公式情報をご確認ください。



それでも「研修が機能しない」会社が多い理由


これだけ恵まれた環境にあるはずなのに、補助金を活用した研修が成果につながっていない会社は少なくありません。理由を3つに整理します。


理由1:補助金の獲得自体が目的化する


補助金の申請書には、「どんな研修を、誰に、いつ実施するか」を具体的に記載する必要があります。この記入欄を埋めるために、研修内容が「補助金が通りやすそうな汎用的なテーマ」に寄っていきます。

「DX人材育成研修」「生成AI活用研修」「マネジメントスキル研修」──いずれも一見もっともらしいテーマですが、自社の業務課題から逆算されたものではなく、補助金の対象になりやすいから選ばれた、というケースが見られます。

研修の出発点が「何を解決したいか」ではなく「何が通りやすいか」になった瞬間、その研修は受講者にとって自分ごとになりません。


理由2:「外部研修を受講させる」ことの限界


リスキリング補助金の多くは、外部の研修機関が提供する講座を受講するスタイルを想定しています。外部の専門家が体系的に教えてくれるという点で、メリットはあります。しかし、ここに構造的な問題があります。

外部研修は、汎用的に設計されています。「うちの業界向けに」とオーダーすることもできますが、それでも自社の業務・文化・言葉・お客様像に完全にフィットすることは、ほぼありません。

受講した社員は、講座を修了して知識を得ます。しかし、その知識をどう自社の業務に当てはめるかは、結局個人任せになります。「研修で学んだ内容を、明日からの仕事にどう活かせばいいか分からない」という声が、ここで生まれます。


理由3:補助金が「コンテンツを買う」発想に閉じ込められている


これが最も根深い問題です。

現状のリスキリング補助金の多くは、「外部から研修コンテンツを購入する」ことを支援する設計になっています。研修コンテンツを内製化する取り組みや、自社の教育設計力を育てる活動には、必ずしも光が当たっていません。

結果として、補助金を活用すればするほど、自社の教育力が育たないという逆説が起きています。年に何度か外部研修を受講させる慣習が定着し、自社で教育コンテンツを設計する文化は育たないままになります。

5年後、補助金の制度が変わったとき、何が残るでしょうか。外部研修への依存だけが残り、自社の教育資産はゼロ──こうした未来は、本当に望ましいものでしょうか。



「補助金を取って終わり」になる会社の共通点


ここまで見てきた3つの理由は、いずれも個別企業の能力の問題ではありません。制度の設計と運用の側に潜む、構造的な問題です。

それでも、補助金を上手に活用して成果を上げる会社と、そうでない会社の差はあります。その違いを5つに整理します。

「補助金獲得をゴールにしている」のか、「補助金活用を起点に教育体制を作ろうとしている」のか。

「外部研修を受講させて終わり」なのか、「外部で学んだことを自社の文脈に翻訳する仕組み」があるのか。

「研修コンテンツを買う」発想なのか、「自社の教育設計力を育てる」発想なのか。

「補助金が出る分だけ研修をやる」のか、「補助金が出ない領域でも研修を継続する」のか。

「補助金担当者と研修担当者が別」なのか、「経営戦略と人材育成が一体化している」のか。

これらは、ツールの問題でも予算の問題でもありません。組織として、人材育成をどう位置づけているかという、思想の問題です。



補助金を活用しながら、研修を機能させる方向性


では、補助金を真に活用するには、何を変えればいいのか。考え方の枠組みを整理します。


外部研修と内製研修を組み合わせる


外部研修だけに頼らず、自社の業務・文化に即した研修コンテンツを内製で持つことが必要です。外部で学んだ「理論」を、内製の研修で「自社の事例」に翻訳する。この二段構えがあって、初めて知識は業務に活きます。


補助金で「教育設計力」に投資する


研修コンテンツを買うことに補助金を使うのではなく、自社で教育コンテンツを継続的に作れる仕組みに投資することを検討してください。AIで教育設計を担うツールへの投資は、補助金対象(IT導入補助金等)になる場合があります。一度仕組みを入れれば、補助金がなくなっても自社で研修を作り続けられます。


研修を「資産形成」として捉える


研修を「年に数回イベント的にやるもの」から、「毎月コンテンツが増えていく組織の資産」として捉え直すことです。外部研修は「一回限りの消費」、内製研修は「組織に残るストック」。この発想転換が、長期的には大きな差を生みます。



まとめ


リスキリング補助金は手厚くなり続けています。制度の追い風があるのは事実です。しかし、その追い風を活かせるかどうかは、補助金そのものではなく、補助金を「どう使うか」にかかっています。

補助金を取ること自体を目的にせず、外部研修だけに依存せず、コンテンツを買う発想から教育設計力を育てる発想へ。

この転換ができる会社こそ、補助金が縮小しても続く「研修が機能する組織」になります。



次回予告


次回は「OJTが難しくなりつつある今、企業内知識をどう継承するか」を取り上げます。リモートワークや組織変化の中で、伝統的な知識継承の仕組みが揺らいでいる現状と、新しい知識継承のあり方を考えます。

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