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なぜ研修内容は忘れられるのか。メモリーパレスの原理で考える「定着する教材」の条件


以前の記事「記憶の宮殿を作る:メモリーパレスとその効果的な活用法」では、情報を物理的な場所に関連付けて記憶する、古代から伝わる記憶術をご紹介しました。想像上の「パレス」に情報を配置し、決まった経路を辿ることで、情報を長く記憶し、必要なときに素早く思い出せるようになる、という手法です。


この記事の最後で、「これを教育プログラムに組み込むことで、組織全体のパフォーマンス向上につながる可能性がある」と結びました。今回は、この可能性について、もう少し掘り下げて考えてみたいと思います。



覚えられない原因は、「量」だけでなく「順序」にもある


研修やマニュアルの内容が、なかなか定着しないという悩みをよく耳にします。多くの場合、その原因は「情報量が多すぎるから」だと考えられがちです。だから、内容を削って、短くまとめようとします。


しかし、メモリーパレスの原理を振り返ると、少し違う見方ができます。メモリーパレスが機能するのは、情報の量が少ないからではありません。情報が、特定の場所やイメージと結びつけられ、さらに決まった経路、つまり順序に沿って配置されているからです。同じ量の情報でも、バラバラに提示されれば覚えにくく、意味のある順序と文脈に沿って配置されれば、覚えやすくなります。


つまり、研修内容が忘れられる原因は、情報量の多さだけではなく、情報が順序や文脈を伴わずに、ただ並べられていることにもあるのではないか、と考えています。



話す順序は、聞き手の理解の順序とは限らない


話の段取りや流れが、相手の理解に影響することは、日常のコミュニケーションの中で誰もが実感として感じ取っていることだと思います。


教える側には、そのトピックの中で特に強調したいポイントがあります。すると、話の流れや構成が、どうしてもその強調したい部分を起点にしたり、そこに補足や付帯事項が絡みついたりしがちです。話し手にとっては自然な流れでも、それは「伝えたい熱量の順序」であって、必ずしも「理解しやすい順序」とは限りません。


聞き手や学習者の側は、話の大事なポイントそのものは理解しているつもりでも、話される順序によって、聞いた内容・学んだ内容同士の関係性が少しずつずれていき、頭の中で混乱してしまうことがあります。

順序立てて教えているつもりでも、それが本当に、学ぶ人にとって順序立っているものなのか。

こう自問すると、迷うことも少なくありません。教える側の関心の順序と、学ぶ側が理解を積み上げていく順序は、同じであるとは限らないのです。



多くの教材は、「宮殿」ではなく「倉庫」になっている


メモリーパレスに例えるなら、多くの研修資料は、部屋も経路も決まっていない、ただの倉庫のような状態になっていることがあります。


情報が箇条書きで並んでいるだけの資料には、「どこから覚え始めればよいか」「どの情報とどの情報がつながっているか」という道筋がありません。学ぶ人は、倉庫に積まれた荷物を、手当たり次第に持ち帰ろうとしているようなものです。当然、後から必要なときに、目的の情報を思い出すのは難しくなります。


一方、メモリーパレスが機能するのは、情報が印象的な場所やイメージと結びつけられ、さらに、あらかじめ決めた経路に沿って順番に思い出せるからです。研修教材も同じで、情報同士の関係が分かり、次に何を学ぶのかを予測できる順序で構成されていれば、学ぶ人の記憶にも残りやすくなります。



「定着する教材」の条件


メモリーパレスの原理と、話す順序・聞く順序のずれという話から、定着しやすい教材の条件を整理すると、次の3つに集約されると考えています。


まず順序です。教える側の関心の起点ではなく、学ぶ側がすでに知っていることから、まだ知らないことへと、段階を踏んで進む道筋であること。次に文脈です。それぞれの情報が、なぜそこにあるのか、何とつながっているのかが分かる形で配置されていること。そして反復と確認です。一度通っただけの経路は忘れやすいものですが、繰り返し辿ることで、記憶として定着していきます。


この3つは、決して目新しい話ではありません。しかし、実際の教材制作の現場では、教える側が伝えたい熱量に沿って話が組み立てられがちで、学ぶ側の理解の順序という視点にまで、意識的に立ち返るのは簡単ではありません。



この設計を、資料から自動的に組み立てる


当社が取り組んでいる「コンテキストAI」は、まさにこの「順序」と「文脈」の設計を、社内資料から自動的に組み立てる仕組みです。

社内資料をアップロードすると、そこに含まれる知識や関係性を整理し、基礎から応用へと理解を積み上げやすい構成に組み立て直します。教える側の資料の並びをそのまま再現するのではなく、学ぶ側が内容を辿りやすい順序へ再構成する考え方です。これは、以前の記事で触れた「AIが学習シーケンスを設計する」という考え方とも重なります。バラバラに存在していた情報の断片を、学ぶ人にとって意味のある経路に並べ直す作業です。



ただし、ここも正直にお伝えしたい点です。順序や構成の「骨格」はAIが設計できますが、学ぶ人が実際に反復し、記憶として定着させていくプロセスに寄り添い、必要に応じて励ましたり確認したりする役割は、引き続き人が担うべきものだと考えています。



まとめ


情報が忘れられるのは、量が多いからだけではなく、順序と文脈という「経路」が設計されていないからかもしれません。そしてその順序は、教える側にとって自然な順序と、学ぶ側にとって理解しやすい順序が、必ずしも一致しないことにも注意が必要です。

メモリーパレスが教えてくれるのは、記憶は情報そのものだけではなく、情報が場所やイメージとどう結びつき、どのような順序と文脈で辿れるかによって支えられている、という原理です。


社内に研修資料やマニュアルはあるものの、「情報を並べただけの教材になっている」「学習者に定着しているか分からない」という課題がある場合は、まず資料の構造と学習順序を見直すことが出発点になります。


社内資料を、学ぶ人が理解しやすい順序と文脈に組み直す「コンテキスト化メソッド」については、こちらでご紹介しています。


コンテキスト化メソッドについてはこちら


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