PowerPointで教材を手作りし続けるコストを、一度ちゃんと計算してみる
- Adop-Context

- 6月19日
- 読了時間: 6分

はじめに
「研修教材は、社内で作っています」
中小企業の人事・研修担当者からよく聞く言葉です。外部に発注するほど予算もないし、社内のことを一番わかっているのは自分たちだから──こうした理由で、PowerPointで教材を手作りしている会社は少なくありません。
ところで、その制作にかかる時間を、一度ちゃんと計算したことはあるでしょうか。「これくらいかかる」という感覚はあっても、数字で可視化したことがある人は、実は多くありません。
今回は、PowerPointで研修教材を手作りし続けるコストを、できるだけ具体的に試算してみます。
1コースの教材を作るのに、何時間かかるか
まず、典型的な研修教材1コース(スライド20枚+クイズ)を作る場合の工数を、フェーズ別に分解してみます。
フェーズ1:構成設計
何を教えるか、どの順番で並べるか、どのレベルまで踏み込むかを決めるフェーズです。ベテラン社員へのヒアリングや、過去資料の整理が含まれます。想定工数:3〜5時間
フェーズ2:スライド作成
1枚あたりの作成時間は、内容にもよりますが平均30〜60分が目安です。図表や画像の挿入、レイアウト調整を含めると、シンプルな内容でも30分は下回りません。20枚で想定工数:15〜20時間
フェーズ3:ナレーション原稿・補足説明の作成
スライドだけでは伝わらない補足情報や、講師が話すべき内容を文章化するフェーズです。想定工数:2〜4時間
フェーズ4:確認クイズの作成
学習内容を踏まえた4択問題を作成し、解説文を書きます。1コースあたり10〜15問程度として、想定工数:2〜3時間
フェーズ5:レビュー・修正
上司や関係部署にレビューしてもらい、フィードバックを反映するフェーズです。初稿の30〜50%程度の時間がかかります。想定工数:5〜8時間
これらを合計すると、1コースあたり27〜40時間。営業日換算で約3.5〜5日分の工数です。
時給に換算してみる
工数を時間で示しても、コスト感は伝わりにくいので、人件費に換算してみます。
人事担当者の月給を30万円、社会保険料などの会社負担を含めた実コストを月45万円と想定します。月の労働時間を160時間とすると、時給換算で約2,800円です。
この時給で、1コース30時間の制作工数を計算すると──。
1コースの制作コスト:30時間 × 2,800円 = 84,000円
スライド20枚のコース1本に、約8万円相当の人件費がかかっています。これが「社内で作っているからタダ」と感じてしまっている、本当のコストです。
年間で見ると、どれくらいになるか
これを年間ベースで見てみます。
頻度A:四半期に1コース(年4本) 84,000円 × 4本 = 年間 336,000円
頻度B:月1コース(年12本) 84,000円 × 12本 = 年間 1,008,000円
頻度C:月2コース(年24本) 84,000円 × 24本 = 年間 2,016,000円
「うちは月1本ぐらい作っているかな」という会社で、年間100万円相当の制作コストが発生していることになります。これは、見える形での予算には計上されていない、隠れた人件費です。
「見えないコスト」はこれだけではない
実は、上記の工数試算には含まれていない「見えないコスト」があります。
修正・更新のコスト 業務手順が変わったり、商品が新しくなったりするたびに、教材の修正が必要になります。1コースあたり年2〜3回の更新が発生するとすれば、毎回4〜8時間の追加工数がかかります。
他業務への影響 人事担当者が教材作成に時間を取られている間、本来やるべき採用業務や労務管理が後回しになります。この機会損失は、直接的なコストには表れません。
属人化リスク 担当者が退職や異動になった瞬間、教材作成のノウハウも、PowerPointファイルの管理も、誰も引き継げない状態になります。これは将来発生する可能性のあるリスクコストです。
完成度のばらつき 社内制作の場合、担当者のPowerPointスキルやデザインセンスによって、教材の完成度に大きなばらつきが出ます。「見やすさ」「わかりやすさ」を担保できない教材は、受講率と理解度を下げる原因になります。
「自分たちで作っているからタダ」という錯覚
ここまでの試算を見ると、ひとつの事実が浮かび上がります。
「社内で作っているから、コストはかからない」という認識は、実態と乖離しています。実際には、目に見えない形で年間数十万円から数百万円相当の人件費が、教材制作に費やされています。
そしてこのコストは、本来であれば「人を採用する」「離職率を下げる」「組織課題を解決する」といった、人事担当者がやるべき本質的な業務に向けられるべき時間です。
実際の担当者からは、こんな声が聞こえてきます。
「教材制作に取り掛かり始めると、他のことが手につかなくなる。担当者なのでそれ自体は仕方ないとしても、実際には他の業務もチームワークとしての協調作業もあり、本当に専業というわけにもいかない。だからストレスも大きい」
教材制作は「集中して向き合う必要があるが、専業ではいられない」という、構造的に難しい業務です。この負荷は時間コストとして数字に表れますが、それ以上に担当者の心理的な疲弊として、日々現場で蓄積しています。
代替手段を考えるための判断基準
教材作成のコストを可視化したうえで、次に考えたいのは「この時間をどう削減するか」です。選択肢は大きく3つあります。
選択肢1:外部に発注する 研修制作会社に依頼すると、1コースあたり20〜50万円が相場です。クオリティは安定しますが、自社の業務・文化・言葉に即した内容にカスタマイズするには追加の調整工数が発生します。更新のたびに再発注が必要なため、コストは累積していきます。
選択肢2:既製のeラーニングを購入する 市販のコンテンツは安価ですが、自社の業務に直接結びつかないため、受講者の学習が自分ごとになりにくいという問題があります。
選択肢3:AIで自動生成する 社内資料をアップロードするだけで教材が生成されるツールを使うと、1コースあたりの制作工数を大幅に削減できます。自社の資料が起点になるため、内容のカスタマイズも自然に行われます。
まとめ
PowerPointで教材を手作りし続けるコストは、「タダ」ではありません。1コースあたり約8万円相当の人件費が、見えない形で発生しています。
このコストを可視化することは、教材制作の現状を見直すきっかけになります。社内で作り続けるべきか、外部に依頼すべきか、AIツールを活用すべきか──選択肢を比較する前提として、まず「今のコスト」を正確に把握することが、第一歩です。
次回予告
次回は「『AIが作った教材』は品質が低い、は本当か──設計ロジックで品質は変わる」を取り上げます。AI生成コンテンツの品質に対する不安と、その本質的な解決策を考えます。
コンテキストAIは、社内資料をアップロードするだけで、AIが教育設計から教材生成までを担います。1コースあたりの制作工数を大幅に削減し、人事担当者が本来集中すべき業務に時間を使えるようになります。





