ベテランの頭の中を組織の財産にできている会社、できていない会社
- Adop-Context

- 6月6日
- 読了時間: 5分
更新日:6月12日

はじめに
「あの人がいなくなったら、どうなるんだろう」
中小企業の経営者や人事担当者と話すと、この不安を口にする人は少なくありません。営業の勘所、クレーム対応のさじ加減、取引先との付き合い方──長年の経験から培われたベテランの知識は、マニュアルにも、引き継ぎ書にも、なかなか書き残せないものです。
この「書き残せない知識」を暗黙知と呼びます。そしてこの暗黙知の継承が、多くの企業で後回しにされ続けています。
暗黙知とは何か
暗黙知とは、言語化・形式化されていない知識のことです。経営学者マイケル・ポランニーが提唱した概念で、「私たちは語れる以上のことを知っている」という言葉がその本質を表しています。
企業の現場における暗黙知は、主に3つの形で存在しています。
ひとつ目は「現場のコツ」です。教科書には書かれていないが、経験を積んだ人だけが知っている判断基準や勘どころ。ふたつ目は「例外対応」です。標準手順では対応できないイレギュラーな状況をどう処理するか、という蓄積された知恵。みっつ目は「関係性の文脈」です。この顧客にはこういう伝え方が刺さる、この案件は誰に相談すればいい、といった人と情報のネットワーク感覚です。
これらはどれも、一緒に仕事をして初めて伝わるものです。だからこそ、OJTという形で先輩から後輩へ「見て覚える」文化が長く続いてきました。
OJTが機能しなくなっている現実
しかし今、そのOJTが機能しにくくなっています。
理由は複数あります。リモートワークの普及で、先輩の仕事を「見る」機会が物理的に減りました。組織のフラット化が進み、ベテランが若手に直接関わる時間が減っています。そして最も深刻なのが、ベテラン自身が多忙すぎて「教える余裕がない」という現実です。
結果として、「ベテランの頭の中にある知識」は組織の中で孤立し始めています。その人がいる間はなんとかなる。でもいなくなった瞬間に、穴が開く。実際の現場からは、こんな声が聞こえてきます。
「マニュアルや手順書を残したところで、資料としてあるだけで、引き継いで実際にやってみてもよくわからない」
「異動前に業務説明を聞いて、一度は理解したつもりだったけど、不明点があって進まない」
「あの人の知識と経験で成立していた業務で、引き継ぐのは困難」
これらはすべて、暗黙知が「資料」にはなっても「学べる形」になっていないことから起きています。多くの中小企業が実感しているこの「属人化問題」の本質は、まさにここにあります。
できている会社とできていない会社、何が違うのか
暗黙知の継承に成功している会社と、失敗している会社の違いはどこにあるのでしょうか。
決定的な差は「仕組みがあるかどうか」ではありません。「意図して言語化しようとしているかどうか」です。
できていない会社は、暗黙知の存在に気づいていながら「いつか整理しよう」のまま放置しています。マニュアルを作ろうとしても、ベテランが忙しくて時間がとれない。ベテラン自身も「自分の知識をどう言葉にすればいいかわからない」という状態に陥っています。
できている会社は、ベテランに「全部言語化してください」とは求めていません。代わりに「この案件のときに、何を考えましたか?」「このお客さんに対応するとき、なぜそうしたんですか?」という問いを継続的に投げかけています。インタビューでも、議事録でも、振り返りメモでも、形式は問わない。「引き出す仕組み」が継続して動いているかどうかが、分岐点です。
資料はある、でも「教育コンテンツ」になっていない
暗黙知の継承を真剣に取り組もうとした会社が、次にぶつかる壁があります。
ベテランにインタビューして、ノウハウをメモにまとめた。過去の事例を整理して、資料にした。社内の共有フォルダに保存した。しかし後輩は「あの資料、読んだことあるけどよくわからなかった」と言う。
素材は存在する。でも、それが「学べるコンテンツ」になっていないのです。
業務の中で蓄積された知識は、「その業務をやるための情報」として書かれています。「人に教えるための情報」として設計されたものではありません。この2つは、根本的に目的が違います。
前者は情報の羅列です。後者は、誰に・何を・どの順番で・どのレベルまで伝えるかが設計されています。ベテランのノウハウを「組織の財産」にするには、この変換が必要です。
暗黙知を「学べる形」に変換するということ
暗黙知を教育コンテンツに変換するプロセスは、大きく3段階で考えられます。
第1段階は「引き出す」です。インタビュー、振り返りメモ、事例記録など、ベテランの頭の中にある知識を何らかの形で言語化します。完璧である必要はありません。断片でも、箇条書きでも、まず外に出すことが重要です。
第2段階は「整理する」です。引き出された情報を、概念・手順・暗黙知の3つに分類します。「これは基礎知識として教えるべきことか」「これはやり方・手順として示すべきことか」「これは現場のコツとして伝えるべきことか」という視点で仕分けをします。
第3段階は「設計する」です。誰に・何を・どの順番で教えるかを決めます。入門者には用語の定義から始め、基本概念を理解させてから標準手順に進む。経験者には例外対応や応用ケースを中心に設計する。受講者のレベルによって、教える順番と深さを変えることが、知識の定着に直結します。
この3段階のうち、多くの企業が第1段階で止まっています。引き出した後の「整理」と「設計」を、誰がどうやってやるかが見えないからです。
まとめ
ベテランの頭の中を組織の財産にできる会社とできない会社の差は、暗黙知の存在に気づいているかどうかではありません。引き出した知識を「整理・設計する仕組み」が動いているかどうかです。
素材はある。でも教育コンテンツになっていない。この変換ができるかどうかが、知識継承の成否を分けます。
次回予告
次回は「研修担当者がいちばん困っていること──『何を教えればいいかわからない』問題」を取り上げます。課題の根本にある「教育設計の不在」を、現場の視点からさらに掘り下げます。
コンテキストAIは、社内資料をアップロードするだけで、AIが暗黙知・手順・基礎知識を自動で分類・整理し、受講者レベルに合わせた教育コンテンツを生成します。ベテランのノウハウを「学べる形」に変換する工程を、大幅に短縮します。 → 無料トライアルはこちら




