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外国人社員向けの研修は、翻訳するだけで伝わるか。仕事の判断まで学べる教材の作り方

執筆者の写真: Adop-Context
Adop-Context
5 分前
読了時間: 10分

外国人社員を迎える企業が増えています。


厚生労働省によると、2025年10月末時点の外国人労働者数は257万1,037人、外国人を雇用する事業所数は37万1,215か所となり、どちらも届出が義務化されて以降で過去最多となりました。


受け入れる企業では、入社時研修や安全教育、業務マニュアルの整備が必要になります。そこで、日本人社員向けの資料を英語や母語へ翻訳し、配布する方法がよく使われます。

翻訳は、内容を理解するための大切な支援です。ただし、文章を別の言語へ置き換えただけで、仕事に必要な判断まで伝わるとは限りません。


「問題があれば早めに相談してください」と書かれていても、何を問題と捉え、どの時点で、誰へ、何を伝えるのかが分からなければ、行動にはつながりにくいでしょう。「臨機応変に対応する」「常識の範囲で判断する」といった表現も、職場で共有されてきた経験や前提を知らない人には伝わりにくいものです。


外国人社員向けの教材づくりで必要なのは、日本語を翻訳することに加えて、仕事の目的、判断の基準、取るべき行動を見える形にすることです。

この記事では、外国人社員が自分の仕事を理解し、必要な場面で判断できる教材の作り方を紹介します。



国籍ではなく、担当業務と理解の状態から考える


最初に確認したいのは、誰に向けて、何を教える教材なのかです。


同じ国の出身者でも、日本語の理解度、仕事の経験、専門知識、来日してからの期間は異なります。日常会話が得意でも、業務で使う専門用語に慣れていない人がいる一方、日本語での会話はまだ難しくても、担当分野の技術を十分に持つ人もいます。


「外国人向け」という一つの対象にまとめず、次のような情報を確認します。


  • 担当する業務と役割

  • 業務経験や専門知識

  • 日本語や使用言語の理解度

  • 最初から一人で行う作業と、指導者と行う作業

  • 安全や品質に関わる判断の範囲

  • 相談や報告が必要になる場面


必要な教育は、国籍だけでは決まりません。たとえば同じ製造現場でも、初めて機械を扱う人には基本操作から伝え、経験者には自社固有の品質基準や停止判断を重点的に説明する方が、実務に合っています。


対象者を具体的にすると、翻訳する資料の選び方も変わります。すべての社内資料を多言語化するのではなく、最初に必要な知識から優先して整えられます。



翻訳する前に、元の日本語を分かりやすくする


日本人社員向けのマニュアルには、職場で共有されている前提が省略されていることがあります。


「いつもの手順で処理する」「適宜確認する」「速やかに報告する」といった表現は、経験のある社員には通じても、初めて読む人には具体的な行動が分かりません。このような文章を正確に翻訳しても、曖昧さは別の言語へ引き継がれます。

まず、元の日本語を整理しましょう。


曖昧になりやすい表現

分かりやすくする例

早めに報告する

異常に気づいた時点で作業を止め、班長へ報告する

適宜確認する

作業開始前と、製品10個ごとに表示値を確認する

問題がなければ進める

表示が20~25の範囲内で、警告灯が消えている場合に進める

上長へ相談する

直属の責任者が不在の場合は、掲示された連絡先へ電話する

臨機応変に対応する

条件Aなら続行し、条件Bなら停止して報告する


出入国在留管理庁と文化庁の「在留支援のためのやさしい日本語ガイドライン」では、情報を整理し、一文を短くし、難しい言葉や外来語に気をつけたうえで、読み手に分かりやすいかを確認する流れが示されています。



やさしい日本語に整えることは、内容を簡単にしすぎることではありません。誰が、いつ、何をするのかを明確にし、読み手が同じ行動を選べるようにすることです。


これは外国人社員だけでなく、新入社員や異動してきた社員にも役立ちます。外国人社員へ伝わるように資料を見直すと、日本人社員が暗黙のうちに補っていた説明の不足にも気づけます。



安全と品質に関わる内容から優先する


すべての教材を一度に作り直す必要はありません。まず、安全や品質への影響が大きく、誤解した場合の負担が大きい業務から始めます。


たとえば、次のような内容です。


  • 作業を始める前の確認

  • 保護具の着用と危険な行動

  • 正常な状態と異常の兆候

  • 作業を停止する条件

  • 自分で対応してよい範囲

  • 報告する相手と、伝える情報

  • 不良品や誤りを見つけたときの扱い


厚生労働省は、外国人労働者への安全衛生教育に使える漫画や動画などを、複数の業種・作業について多言語で公開しています。文章だけでなく、視覚的な教材と組み合わせる方法は、危険な状態や取るべき行動を具体的に示すうえで参考になります。厚生労働省「外国人



ただし、一般的な教材だけでは、自社の設備、担当者、報告経路までは伝えられません。公的な教材で共通の基礎を学び、自社教材で実際の作業と判断を補う形が現実的です。

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写真や動画には「何を見るか」を添える


言葉の負担を減らすために、写真、イラスト、動画を使う方法があります。実際の設備や作業を見せれば、文章だけよりも理解しやすくなる場面は多いでしょう。


一方、画像を載せるだけでは、見るべき場所が伝わらないこともあります。


設備の写真なら、操作するボタンを囲み、押す順番を番号で示します。正常品と不良品を並べる場合は、違いが現れる箇所へ矢印を付け、判断基準も短い文章で添えます。動画では、作業全体を一度に見せるだけでなく、動作を小さな単位に分け、停止や報告が必要な場面を説明します。


色だけで良否を区別すると、見え方によって判断しにくい場合があります。色に加えて、記号、形、位置、文字を組み合わせると、情報を受け取りやすくなります。


画像は文章の代わりではなく、注意を向ける場所と行動を伝えるために使うものです。「この画像から何を見つけ、どう動いてほしいか」を決めてから選びましょう。



用語は翻訳する前に統一する


同じものを、部署や指導者によって違う言葉で呼んでいる職場があります。

正式名称では「保護カバー」でも、現場では「ふた」「ガード」「カバー」と呼ばれている。停止操作も、「止める」「切る」「落とす」など複数の言い方が使われている。この状態で教材を翻訳すると、訳語もばらつき、学習者が別のものだと受け取る可能性があります。


先に、日本語の標準用語を決めます。そのうえで、多言語の用語集を作り、教材、掲示物、指導時の表現をできるだけ揃えます。


用語集には、単語の訳だけでなく、写真や使用場面を添えると役立ちます。たとえば「停止」と「非常停止」は、どちらも機械を止める言葉ですが、使う場面や再開手順が異なります。違いまで説明することで、業務の中で使える知識になります。



手順だけでなく、判断の分かれ目を教材にする


標準的な作業手順を覚えても、実際の仕事では迷う場面が出てきます。


材料の状態が普段と違う。お客様から想定していない質問を受けた。画面に見慣れない表示が出た。こうした場面で大切なのは、すべてを自分で解決することではなく、状況に応じて続行、停止、確認、報告を選べることです。


教材では、具体的な場面を示し、次のように考えてもらいます。


  1. 何が通常と違うか

  2. 追加で何を確認するか

  3. 作業を続けてよいか

  4. 誰へ報告するか

  5. 報告時に何を伝えるか


回答後には、正解だけでなく、その行動を選ぶ理由も説明します。文章の理解を確かめるだけなら、用語を覚えれば答えられます。しかし、事例を使って判断してもらえば、知識を仕事で使えるかを確認できます。


特に安全や品質に関わる場面では、「分からないときは、どこで止まり、誰へ聞くか」を明確にしましょう。質問することも、仕事を安全に進めるための大切な行動です。



「分かりましたか」ではなく、行動で確認する


研修の最後に「分かりましたか」と尋ねると、学習者はうなずくかもしれません。理解していても、質問の仕方が分からなかったり、研修を止めることに遠慮したりする場合があるからです。


そこで、理解を行動で確認します。


  • 実際の道具を使い、手順を行ってもらう

  • 写真を見て、正常と異常を分けてもらう

  • 事例から、続行・停止・報告を選んでもらう

  • 報告する内容を、自分の言葉で説明してもらう

  • 指導者へ作業の目的を説明してもらう


答えられなかったときは、本人の能力だけを問題にせず、教材や指導方法も振り返ります。使われている言葉が難しかったのか、説明が抜けていたのか、画像が実際の現場と違っていたのかを確認し、次の改善へつなげます。



指導者による説明の違いも整える


教材を多言語化しても、現場の指導者によって説明や判断基準が違えば、学習者は迷います。


ある先輩は「迷ったら止めて」と教え、別の先輩は「その程度なら続けてよい」と言う。報告先や用語が人によって違う。このような状態は、外国人社員だけでなく、新入社員にも負担になります。


教材を作る際には、経験者へ次の点を確認します。


  • 正常と異常を分ける基準

  • 自分で調整してよい範囲

  • 作業を止める条件

  • 報告が必要な相手と順番

  • 指導者によって説明が違う箇所


意見が分かれる場合は、設備や製品の条件を整理し、組織として使う基準を決めます。外国人社員向けの教材づくりは、すでに職場にある教育のばらつきを見直す機会にもなります。



AIは、やさしい日本語や多言語化の原案を支援できる


AIを使うと、業務マニュアルをやさしい日本語へ書き換えたり、複数の言語へ翻訳したりできます。用語集をもとに表現を揃え、理解度を確認する問題の原案を作ることも可能です。

ただし、自然に読める文章が、業務上正しいとは限りません。専門用語の意味が変わったり、禁止と許可の条件が入れ替わったりすると、安全や品質へ影響します。方言、現場の略語、自社固有の設備名などが、別の意味に訳されることもあります。


AIで原案を作った後は、次の人が役割を分けて確認します。


  • 業務責任者:手順と判断基準が正しいか

  • 言語を理解する人:訳文が自然で、意味が合っているか

  • 教育担当者:対象者に合う難しさと順番になっているか

  • 実際の学習者:読んで行動できるか


AIは多言語化の作業を速めます。人は、仕事の文脈と判断の正しさを確かめます。この役割分担によって、制作負担を抑えながら、実務で使える教材へ近づけられます。



外国人社員向けの教材は、職場全体を分かりやすくする


外国人社員向けの研修では、翻訳が必要になる場面があります。ただし、伝える内容が曖昧なままでは、どれほど多くの言語へ翻訳しても、仕事の判断は揃いません。


まず、担当業務と学習者の状態を確認する。元の日本語を分かりやすくし、安全や品質に関わる内容から整える。写真や動画には見るべき場所を示し、用語と判断基準を揃える。そのうえで多言語化し、実際の行動や事例を使って理解を確かめます。


この取り組みは、特定の社員だけのために資料を作り直すことではありません。これまで経験者が無意識に補っていた知識を言葉にし、誰もが学べる形にすることです。


外国人社員へ伝わる教材は、新入社員や異動者にも分かりやすい教材になります。多様な人が安心して学び、同じ基準で仕事ができる環境をつくることは、社内知識を教育資産へ変える大切な一歩です。



社内知識を、誰もが学べる教育資産へ


社内資料や現場のノウハウを、社員が理解し、判断や行動に活かせる形へ変える「教育資産化」について紹介しています。




多言語の社内教材づくりを検討している方へ


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