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教材制作は誰が担うのか。人事・現場・制作担当の役割を整理する


前回の記事では、従業員の知識や経験に合わせて教育を設計する方法をご紹介しました。学習者の現在地と到達点を捉え、全員に共通する内容と、経験や業務によって変える内容を分けることで、社内にある同じ知識を、それぞれの仕事に生かせる教材へ変えていく考え方です。


このような教材を実際に作ろうとすると、次に「誰が作るのか」という問題が生まれます。

人事・研修部門は教育の目的や対象者を考えられますが、現場の細かな業務まですべて把握しているとは限りません。現場の担当者は業務に詳しい一方で、通常業務と並行して教材を設計し、制作する時間を確保することが難しい場合があります。


教材制作には教育の視点と業務の視点が必要になるため、どちらか一方へ任せるだけでは進みにくくなります。



教材制作の担当者は、一つの部門に集中していない


当社が、従業員教育に関わる教育担当者・経営者250名を対象に実施した調査では、教材制作の主な担当者として最も多かったのは「現場の管理職・従業員」の19.2%でした。


「人事・研修部門の専任担当者」と「人事・研修部門と現場が共同で制作」が、それぞれ16.0%で続き、「人事・研修部門の兼任担当者」は14.8%となっています。「決まった担当者はいない」という回答も12.0%ありました。


特定の部門だけが教材制作を担っているのではなく、人事・研修部門、現場、兼任担当者など、企業によってさまざまな体制が取られていることが分かります。

また、従業員教育や教材づくりにおける最も大きな課題として、「教材を作れる人材がいない」を選んだ回答は10.8%でした。


企業規模別の集計では、10〜100名の企業で16.9%となり、この区分では最も多い回答でした。ただし、企業規模による統計的に有意な差は確認されていないため、小規模企業に固有の課題として断定することはできません。


それでも、教材制作を担当する人材や体制の整備が、一定数の企業にとって重要な課題であることは読み取れます。



「教材を作れる人」が持つべき知識は一つではない


教材を作れる人材という言葉からは、文章を書いたり、PowerPointを作成したり、動画を編集したりできる人を思い浮かべるかもしれません。

しかし、企業内の教材制作に必要な役割は、制作作業だけではありません。


最初に、誰に何を身につけてもらうのかを決めます。次に、業務上必要な知識を集め、学習者が理解しやすい順番へ組み替えます。説明や事例、確認問題を加えた後には、内容が現在の業務や制度と合っているかを確認し、公開後も継続して更新していきます。

この一連の工程では、教育設計、業務知識、コンテンツ制作、内容確認、運用管理という複数の専門性が必要になります。


これらをすべて一人で担おうとすると、その人が教材制作のボトルネックになりやすくなります。担当者が多忙になったり異動したりすれば、教材の制作や更新も止まってしまいます。


教材を作れる人材を一人探すよりも、教材制作に必要な役割を分け、それぞれを誰が担うのかを整理する方が、継続しやすい体制につながります。



人事・研修部門は、教育の目的と対象者を定める


人事・研修部門が担う中心的な役割は、教育の目的と対象者を明確にすることです。

どの部署の、どのような経験を持つ人が学ぶのか。研修後に、どのような場面で何ができるようになってほしいのか。学習内容をどの時期に届け、どのように効果を確認するのか。


こうした教育全体の設計は、個別業務の説明だけを見ていても決められません。企業の人材育成方針や対象者の状況を捉え、現場の要望を教育の目的へ変換する役割が必要です。

たとえば、営業部門から「新製品の研修をしたい」という依頼を受けた場合、製品情報を伝えることだけが目的とは限りません。


新入社員に基本的な製品知識を身につけてもらうのか、既存の営業担当者が顧客課題に応じた提案をできるようにするのかによって、教材の内容は変わります。

人事・研修部門が目的と対象者を具体化することで、現場からどのような知識を集め、教材へ何を盛り込むべきかが見えやすくなります。



現場は、業務知識と判断基準を提供する


現場の担当者には、業務を進めるうえで必要な知識や経験が蓄積されています。

正式な手順は業務マニュアルに書かれていても、条件によって対応を変える基準や、過去に起きた失敗、注意すべき兆候などは、資料に十分残されていないことがあります。


教材制作で現場に求められるのは、完成した教材を一から作ることよりも、業務で実際に使われている知識を提供し、その内容が正しいかを確認することです。

どのような場面で迷いやすいのか。新人が間違えやすいポイントはどこか。経験者は、何を手がかりに状況を判断しているのか。


こうした情報を現場から引き出すことで、業務マニュアルの説明を、実務で判断するための教材へ変えられます。


現場の担当者へ教材制作のすべてを依頼するのではなく、業務知識の提供と内容確認に役割を絞れば、通常業務への負担も調整しやすくなります。



制作担当は、業務知識を学習の流れへ変える


制作担当の役割は、人事・研修部門が定めた教育目的と、現場から集めた業務知識を、学習者が理解できる形へ変換することです。


元資料のページ順をそのまま使うのではなく、学習目標へ到達するために必要な内容を選び、理解しやすい順番へ並べ直します。説明だけで理解しにくい部分には事例を加え、判断が必要な場面には問いや確認問題を設けます。


画面に表示する情報、音声や文章で補足する情報、学習者自身に考えてもらう内容を整理することも、制作担当の役割です。


この工程では、見栄えのよいスライドを作る技術以上に、業務知識をどのような学習体験へ変えるかという視点が求められます。

制作担当が業務内容を独自に解釈して補うのではなく、不明点を現場へ戻し、確認しながら教材を組み立てることで、分かりやすさと正確性を両立できます。



承認者は、公開できる内容かを判断する


教材が完成した後には、内容の正確性と公開範囲を確認する役割も必要です。

社内規程や業務手順、製品仕様が正しく反映されているか。機密情報や個人情報が含まれていないか。対象者へ公開してよい内容か。古い資料を参照していないか。


教材制作に複数の部門が関わる場合、誰が最終的な公開判断を行うのかが曖昧になりやすいため、承認者をあらかじめ決めておきます。


承認者がすべての文章やデザインを細かく修正する必要はありません。業務上の正確性やリスクを確認し、教材を利用できる状態にすることが中心となります。

公開後に制度や業務が変わった際、誰が教材の更新を判断するのかまで決めておけば、教材が古いまま残ることも防ぎやすくなります。



一人の担当者ではなく、工程で役割を分ける


教材制作を進める際には、「誰が担当者か」という問いだけでなく、「どの工程を誰が担うか」を整理することが重要です。


人事・研修部門が教育目的と対象者を定め、現場が業務知識や判断基準を提供します。制作担当が学習の流れへ組み立て、承認者が正確性と公開範囲を確認します。

企業の規模や体制によっては、一人が複数の役割を兼ねることもあります。その場合でも、今どの役割として作業しているのかを分けて考えることで、確認漏れや判断の偏りを減らせます。


たとえば、人事担当者が教材制作も兼任する場合は、現場の業務知識を確認する工程を設けます。現場の管理職が教材を作る場合は、対象者や学習目標を人事・研修部門と確認し、公開前に別の担当者が内容を点検します。


役割分担の目的は、関係者を増やすことではありません。必要な知識と判断を適切な人から受け取り、一人の負担や経験だけに依存せず、教材を継続して作り、更新できる状態をつくることです。



AIは役割を置き換えるのではなく、工程をつなぐ


生成AIを使うことで、社内資料から知識を抽出し、学習目標や構成案、説明文、確認問題の原案を作る時間は短縮できます。


ただし、誰に何を身につけてもらうのかという教育目的や、現場で使われている判断基準、公開してよい情報の範囲は、企業の中で決める必要があります。

AIが教材制作を支援する場合も、人事・研修部門、現場、制作担当、承認者の役割が消えるわけではありません。それぞれが持つ情報を集め、教材の原案を作り、確認や修正を行う工程を進めやすくするものとして捉えることができます。


AIによって制作作業の負担が軽くなれば、人は、教育目的の具体化や現場知識の確認、生成された内容のレビューといった、企業の文脈を必要とする仕事へ時間を使えるようになります。


教材を作れる人材がいないという課題に対して、すべてを担える一人を育てたり採用したりすることだけが解決策ではありません。


教材制作を工程に分け、人とAIの役割を整理することで、社内の知識を持ち寄りながら、継続して教材を作れる体制へ変えていくことができます。



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