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AIで教材を作れても、企業の教育課題がなくならない理由


生成AIの登場によって、教材制作にかかる時間は短くなりつつあります。

PowerPointやPDFを読み込ませれば、内容を整理し、教材の構成案を作ることができます。説明文やナレーション、確認問題の原案まで生成できるため、研修担当者が白紙の状態から制作を始める必要もなくなってきました。


これまで時間や人手を確保できず、教材化を見送っていた社内資料にも、活用の可能性が生まれています。


しかし、AIで教材を作れるようになれば、企業の教育課題がすべて解決するわけではありません。


教材制作の効率化は、従業員教育を改善するための重要な手段です。ただし、その前後には、AIだけでは決められない問題が残されています。



教材を作る前に、何を変えたいのか(目的)を決める


教材制作を始めるとき、最初に考えるべきことは、「どの資料を使うか」ではありません。研修を通じて、学習者の何を何を変えることを目的とするのかを明らかにすることです。


たとえば、製品知識を学んでもらう場合でも、製品名や機能を覚えてもらうことと、顧客の課題に応じて適切な提案ができるようになることでは、必要な教材が異なります。


コンプライアンス研修でも、規程の内容を知ることが目的なのか、問題が起きそうな場面に気づき、適切な行動を選べることが目的なのかによって、説明や確認問題の設計は変わります。


生成AIは、資料の内容から学習目標の候補を示すことができます。しかし、企業がどのような課題を抱え、研修後に従業員へどのような行動を求めるのかまでは、自動的に決められません。


教材を速く作れるようになっても、教育の目的が曖昧なままでは、情報を分かりやすく並べ替えただけの教材になってしまいます。



元の資料が正しいとは限らない


AIによる教材制作では、PowerPointやPDF、Wordなどの社内資料が情報源になります。

ここで見落としやすいのが、資料に書かれている内容が、現在も正しいとは限らないことです。


制度が改定されているにもかかわらず、以前の説明資料が共有フォルダに残っていることがあります。製品仕様や業務手順が変わっていても、過去の研修資料には反映されていないかもしれません。同じテーマの資料が複数あり、どれを正式な情報として扱うべきか分からない場合もあります。


AIは、与えられた資料をもとに教材の原案を作ります。古い資料を渡せば、古い内容を整然と説明した教材ができる可能性があります。

文章が自然で見栄えも整っていると、かえって情報の古さや誤りに気づきにくくなります。

AIを使う前に、情報源となる資料を確認し、現在の業務や制度と一致しているかを判断する必要があります。教材制作の効率化と、元資料の正確性を管理することは、別の課題として考えなければなりません。



現場の知識は、資料の中だけにあるわけではない


企業の中で使われている知識のすべてが、資料に書かれているわけではありません。

業務に慣れた人は、条件によって手順を変えたり、過去の経験から注意すべき兆候を見つけたりしています。規程には書かれていなくても、関係部署との調整を円滑に進めるための判断基準を持っていることもあります。


対面研修では、講師がこうした知識を口頭で補ってきました。受講者の反応を見ながら事例を加え、誤解しやすい部分を説明し直すこともできます。


ところが、研修で使われたPowerPointだけが残されている場合、講師が話していた内容は記録されていません。


AIが資料を正確に読み取っても、そこに存在しない情報までは抽出できません。一般的な事例を補うことはできても、それが自社の現場で行われている判断と一致するとは限りません。


教材化の過程では、資料の内容を変換するだけでなく、講師や実務担当者の中にある知識を聞き出し、必要なものを加える作業が求められます。


AIで制作を効率化できるからこそ、人は、資料に残されていない知識を見つけることへ時間を使えるようになります。



教材を作っただけでは、学びは定着しない


教材が完成しても、従業員に利用されなければ教育にはなりません。

誰に、いつ学んでもらうのか。業務時間の中に学習する機会を設けるのか。受講を案内した後、進捗をどのように確認するのか。学んだ内容を現場で使えているかを、誰が確かめるのか。


こうした運用が決まっていなければ、教材は社内ポータルや学習管理システムに置かれたままになります。


受講完了率だけを見ていても、教育の効果は十分に判断できません。教材を最後まで見たことと、必要な知識を理解し、業務で適切に判断できることは異なります。


確認問題の結果や受講者から寄せられた質問、現場で繰り返されるミスなどを見ながら、教材の内容を改善していく必要があります。制度や業務が変われば、該当する部分を更新しなければなりません。


AIは教材を作る工程を支援できますが、学習機会を設計し、利用状況や結果を見ながら改善を続けるのは、企業の教育活動そのものです。



AI導入の前後にある課題を見る


生成AIによって、教材制作の負担は確実に変わります。

資料の読み込みや構成案の作成、説明文、ナレーション、確認問題の原案づくりにかかる時間を短縮できれば、これまで教材化できなかった社内知識を活用しやすくなります。


一方で、AIが解決するのは、従業員教育を構成する工程の一部です。

教育によって何を変えたいのかを決め、情報源となる資料の正しさを確認する必要があります。資料に残されていない現場の知識を集め、完成した教材を学習者へ届ける運用も欠かせません。その後には、学習結果を確認し、教材を更新する仕事が続きます。


AIで教材を作れることと、企業の教育課題が解決することの間には、まだ距離があります。

この距離を埋めるためには、AIの性能だけを見るのではなく、教材を作る前の目的設定から、公開後の運用と改善までを、一つの教育活動として捉える必要があります。


では、実際の企業では、従業員教育のどこに課題を感じているのでしょうか。教材はどのように作られ、生成AIはどの程度利用されているのでしょうか。


次回は、従業員教育に関わる経営者・担当者250名を対象に実施した調査から、企業における教材制作と生成AI活用の実態をご紹介します。



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