社内知識の教育資産化とは。社内資料を「残す」から「学べる」へ
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更新日:8 時間前

本記事は、企業内に蓄積された資料や経験を、従業員が学び、判断や行動に生かせる形へ変える「社内知識の教育資産化」シリーズです。
企業の中には、長年の事業活動を通じて蓄積された多くの知識があります。製品やサービスについての知識だけでなく、業務手順、社内規程、コンプライアンス、ガバナンス、マナーやコミュニケーションなど、従業員が仕事を進めるために必要な知識が、さまざまな資料の中に残されています。
多くの企業では、担当者がPowerPointなどで資料を作成し、対象となる従業員へ説明しています。コンプライアンスや情報セキュリティなどは必須研修として定期的に実施され、研修そのものは社内運用として定着している企業も少なくありません。
しかし、その知識が「誰もが継続的に学べる仕組み」になっているかというと、必ずしもそうではありません。
資料は存在していて、研修も実施している。それでも、担当者の説明がなければ内容を理解しにくかったり、受講者がどこまで理解したのかを確認できなかったりします。前年の資料を更新しながら、毎年ほぼ同じ構成で研修を続けているケースもあります。
つまり、企業内教育は実施されていても、そこで使われる知識や教育設計が、継続的に活用できる仕組みとして蓄積されていないことがあります。
私たちは、この間にある課題を「社内知識の教育資産化」という視点から捉えています。
社内知識の教育資産化とは何か
私たちが考える「社内知識の教育資産化」とは、企業が持つ資料や経験、ノウハウを、従業員が理解し、判断や行動に生かせる学習コンテンツへ変換し、継続的に活用・更新できる状態にすることです。
単に資料をデジタル化したり、共有フォルダへ保存したりすることではありません。
誰に、何を学んでもらうのかを明確にし、理解に必要な背景や事例を加え、学習後には確認問題やテストによって理解状況を確認する。対象者へ配信した後も、受講状況や結果を見ながら、製品、業務、制度などの変更に合わせて内容を更新していきます。
こうした仕組みまで含めて継続的に活用できるようになると、社内資料は、単なる記録から教育に使える資産へ変わっていきます。
私たちは、この違いを「情報資産」「ナレッジ共有」「教育資産」という3つの状態で捉えています。
文書として保存され、必要なときに参照できるものは情報資産です。必要な人が検索し、業務の中で利用できるようになると、ナレッジ共有としての価値が高まります。さらに、学ぶ人が内容を理解し、適切に判断し、行動できるよう教育設計が加えられたものが、教育資産です。
情報を残すところから、使えるように共有し、さらに学べる状態へ変えていく。その最後の段階にあるのが、教育資産化だと考えています。
研修を実施することと、教育を仕組み化することは違う
企業内には、従業員へ確実に伝えなければならない知識があります。
コンプライアンスやハラスメント防止、情報セキュリティ、社内規程などはその代表例です。製品やサービス、業務のワークフローについても、担当者や部門によって理解が異なれば、仕事の品質や判断に影響します。
こうした知識をPowerPointにまとめ、集合研修やオンライン会議で説明する方法が間違っているわけではありません。説明者が参加者の反応を見ながら補足したり、その場で質問に答えたりできることは、対面やライブ研修の大きな価値です。
問題になるのは、学習の成立が担当者個人の説明力や経験に依存しすぎる場合です。
研修資料だけを後から読んでも、当日の説明がなければ意味が分からない。研修を欠席した人には資料を渡すだけになり、説明の背景が共有されない。受講後も、内容をどの程度理解したのかを確認する手段がない。
この状態では、研修は実施できていても、教育そのものが仕組みとして残りにくくなります。
自社の資料に教育設計を加え、従業員がオンラインでも学べるようにし、確認テストなどによって理解状況を確認できるようになれば、学習は担当者のレクチャーだけに依存しにくくなります。
これは講師や担当者を不要にするという意味ではありません。基本的な知識を学習コンテンツとして共有できるようにすることで、人は質問への対応や、理解が十分でない人へのフォローなど、人だからこそできる部分へ時間を使いやすくなります。
社内資料は、なぜそのままでは教材にならないのか
社内資料の多くは、もともと学習を目的として作られていません。
製品説明資料は、製品の特徴や仕様を伝えるために作られます。業務マニュアルは、操作や作業の手順を確認するためのものです。規程は、守るべきルールを定めています。
それぞれの用途では正確で優れた資料であっても、初めてその内容を学ぶ人に必要な説明まで含まれているとは限りません。
なぜ、この手順が必要なのか。どのような状況で判断を間違えやすいのか。規程に反した場合、顧客や会社へどのような影響があるのか。似た事例に直面したとき、何を基準に判断すればよいのか。
こうした学習上の文脈は、資料の外側にあり、作成者や担当者の頭の中に残っていることがあります。
もちろん、資料に書かれていない知識をAIが勝手に取り出せるわけではありません。だからこそ、教材化の過程で「この手順の理由が書かれていない」「この判断基準は資料だけでは分からない」と気づき、必要に応じて担当者へ確認する工程が重要になります。
私たちが教材制作で重視しているのは、元の資料を短く要約することではありません。
教材化で最初に考えるべきことは、学習後に「何を理解し、何を判断し、どのように行動できるようになるか」です。
資料の要約は、情報を整理し、短く分かりやすくする作業です。一方、教材化は、学ぶ人がどのような順序で理解し、その知識をどのように判断や行動へつなげるのかを設計する作業です。似ているように見えますが、目的は異なります。
学ぶ目的は、仕事の中で使えるようになること
従業員教育の目的は、知識を覚えてもらうことだけではありません。
学んだ内容を理解し、実際の仕事の中で必要なときに適切な判断や行動へつなげられることが重要です。
そのため、教材を設計するときには、何を理解してもらいたいのかだけでなく、その知識をどのような場面で使うのかまで考える必要があります。
たとえば、コンプライアンス研修で規則を説明するだけでは、実際の場面で正しく行動できるとは限りません。
「このケースにはどの規則が関係するのか」「判断に迷った場合は誰へ相談するのか」「どの時点で報告する必要があるのか」といった実務との接続が必要になります。
知識を伝える資料と、行動につなげる教材の違いは、ここにあります。
すべての研修で高度な判断まで求める必要はありません。内容によっては、正確にルールを覚え、その通りに行動できることが重要な場合もあります。大切なのは、その研修で何ができる状態を目指すのかを、最初に明確にすることです。
前回の研修設計を踏襲してもよいのか
企業の教育担当者は、多くの場合、教育だけを担当しているわけではありません。ほかの業務を抱えながら研修を企画し、資料を作成しています。
必要性は分かっていても、毎回ゼロから教育設計を見直す時間を確保するのは簡単ではありません。そのため、前年の研修資料や構成を踏襲し、変更された部分だけを更新する方法が取られます。新しい研修でも、既存資料を参考にしながら同じような構成で作ることがあります。
前回の設計を再利用すること自体に問題があるわけではありません。
すでに十分に整理され、実際の研修でも使われてきた構成であれば、再利用するほうが効率的です。毎年すべてをゼロから作り直す必要もありません。
ただし、「去年もこの構成だったから」という理由だけで踏襲するのではなく、今回の対象者や研修目的にも合っているかを確認する必要があります。
対象者に必要な知識が変わっていないか。学習後に求める判断や行動が明確になっているか。説明者がいなくても理解できる部分と、対面で補う必要がある部分は整理されているか。確認テストは、今回の学習目標に合った内容になっているか。
教材を更新するタイミングは、情報が古くなっていないかを確認するだけではなく、教育設計そのものが現在の目的に合っているかを見直す機会でもあります。
教育資産化によって何が変わるのか
社内資料を教育資産として活用できるようになると、担当者が毎回同じ内容を説明することだけに時間を使わずに済むようになります。
従業員は必要な時期にオンラインで学習でき、会社側も受講状況や確認クイズの結果を把握できます。担当者の異動や退職があっても、教育に必要な知識や教材が組織側に残りやすくなります。
一方で、研修をオンライン化すれば、すべてが解決するわけではありません。
PowerPointを動画にしたり、PDFをオンライン上へ置いたりしただけでは、資料の置き場所が変わっただけになる場合があります。
重要なのは、何を学んでもらうのかという目標を決め、その目標に必要な説明や事例を配置し、学習後に理解状況を確認できるよう、一つの流れとして設計することです。
教育資産化の価値は、研修をオンラインへ移すことそのものではありません。社内にある知識を繰り返し学び、確認し、改善できる状態にすることにあります。
AIは教材制作をどこまで変えるのか
生成AIの登場によって、社内資料から教材の原案を作る工程は大きく変わり始めています。
資料から重要な情報を整理し、学習目標や構成の案を考え、説明文や確認問題の土台を作る。これまで担当者が一から作成していた工程の一部を、AIが支援できるようになりました。
しかし、AIに資料を読み込ませれば、完成した教材が自動的にできるわけではありません。
対象者にとって説明が不足していないか。自社の業務やルールに合っているか。どの知識を特に重視するのか。学習後に、どのような状態を目指すのか。
AIは学習目標や教材構成の案を作ることができますが、それが企業にとって適切なのかを最終的に判断するには、元資料の意味と教育する目的の両方を理解している人が必要です。
AIが教材の土台を作り、人が確認して仕上げる。
AIによって制作にかかる時間を減らすことができれば、担当者は文章を一から作ることよりも、「本当にこの内容を教える必要があるのか」「この研修で何ができるようになってほしいのか」を考えることへ、より多くの時間を使えるようになります。
企業の人材育成には、いまも大きな課題がある
厚生労働省が2025年6月27日に公表した「令和6年度 能力開発基本調査」では、能力開発や人材育成について何らかの問題があると回答した事業所は79.9%でした。また、正社員に対して計画的なOJTを実施した事業所は61.1%、教育訓練費用を支出した企業は54.9%となっています。(厚生労働省)
この調査は、常用労働者30人以上を雇用する企業・事業所などを対象としており、日本のすべての企業をそのまま表すものではありません。それでも、多くの事業所が人材育成に何らかの課題を感じていることが分かります。(厚生労働省)
教育が重要ではないと思っている企業ばかりなのではなく、必要性を認識しながら、体制や時間、費用などの制約の中で、どのように継続するかに悩んでいる企業が多いのではないかと考えています。
教育担当者の負担をそのまま増やすだけでは、この問題は解決しません。
社内にすでに存在する資料を活用しながら教育設計を加え、繰り返し利用できる仕組みへ変えていくことは、限られた人員で企業内教育を継続する方法の一つになります。
参考:厚生労働省「令和6年度 能力開発基本調査」 調査結果を見る
教育資産は、一度作って終わりではない
製品やサービス、業務、制度は変化します。学ぶ人の役割や経験も同じではありません。
そのため、教育資産化は、資料を一度教材に変換して完了する取り組みではありません。
現場で使われている資料を見つけ、学習コンテンツへ変換し、対象者へ届ける。配信後は進捗や確認クイズの結果を見ながら、必要に応じて内容を見直します。新しい知識や変更されたルールがあれば、それを教材にも反映していきます。
この循環を作ることで、社内知識は古い資料として蓄積されるだけではなく、使いながら更新される資産になります。
一度作った教材を完成品として固定するのではなく、実際に使われた結果を見ながら育てていく。その状態まで含めて、教育資産化だと考えています。
私たちが「社内知識の教育資産化」に取り組む理由
株式会社アドップ・コンテキストは、企業の教育コンテンツ、マニュアル、動画、マーケティングコンテンツの企画・制作に携わってきました。
その中で繰り返し見てきたのが、教育の元になる情報はすでに社内に存在しているにもかかわらず、従業員が学べる状態にはなっていないという状況です。
正確な製品資料があっても、初めて学ぶ人に必要な説明の順序がありません。業務マニュアルに操作手順が書かれていても、なぜその操作が必要なのか、どこで間違いやすいのかまでは残されていないことがあります。
PowerPointだけを見ると説明が不足しているように感じるのに、担当者が話し始めると非常によく分かる研修もあります。逆に言えば、その担当者の説明まで含めて、初めて教材が成立していたということです。
資料を作成した本人へ確認して初めて、教材に必要な背景や判断基準が見えてくることもあります。
こうした経験から、私たちは、資料が存在することと、人が学べることの間には、教育設計と編集の工程が必要だと考えるようになりました。
私たちが開発する「コンテキストAI」も、社内資料を学習コンテンツへ変え、企業内で継続的に活用するための取り組みの一つです。
ただし、目的はAIで教材を作ることではありません。
企業が持つ固有の知識を、従業員が理解し、判断や行動につなげられる形で、次の人へ引き継いでいくこと。そのための仕組みを作ることが、社内知識を教育資産化する目的です。
会社の中にある知識を、資料として「残す」だけではなく、次の人が「学べる」形で残していく。
私たちは、それを「社内知識の教育資産化」と呼んでいます。
社内資料の教材化を検討している方へ
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