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社内資料のページ順が、教材で学ぶ順番とは限らない



本記事は、企業内に蓄積された資料や経験を、従業員が学び、判断や行動に生かせる形へ変える「社内知識の教育資産化」シリーズです。


前回の記事では、社内資料から教材を作る際に、最初に学習目標を定める重要性についてご紹介しました。教材設計の出発点は、「この資料から何を教えるか」ではなく、「この教材を学んだ人に、何ができるようになってほしいか」を考えることにあります。


学習目標が決まったら、次は、その目標へ到達するために何を、どの順番で学んでもらうかを設計します。元の資料にはすでにページの順番があるため、そのまま教材へ移せばよいようにも思えます。しかし、資料を説明するための順番と、人が理解するための順番は、必ずしも同じではありません。


社内資料を教材へ変えるには、情報を章や単元に分けるだけでなく、学習者の理解が積み上がる順序へ組み替える必要があります。この学びの順序を設計する工程を、シーケンス設計と呼びます。



元資料の順番には、元資料の目的がある


社内にある資料は、教材として作られたものばかりではありません。製品説明資料は顧客へ製品の価値を伝えるため、業務マニュアルは必要な操作やルールを参照するため、規程集は会社として定めた事項を正確に記録するために作られています。会議資料にも、特定の議題について報告し、意思決定を行うという目的があります。


そのため、それぞれの資料には、その用途に適した情報の順番があります。製品説明資料であれば、市場の課題を示した後に製品の特徴や導入効果を説明するかもしれません。業務マニュアルであれば、画面のメニュー構成や操作の流れに沿って情報が並んでいるでしょう。


それらは、製品を紹介したり、必要な情報を探したりするための順番です。一方、教材には、学習者が新しい知識を理解し、すでに持っている知識と結びつけ、最終的に業務で使えるようになるための順番が必要です。


元資料のページ順をそのまま教材へ移すと、必要な情報は揃っているものの、なぜその情報を学ぶのか、前後の内容がどのようにつながっているのかが分かりにくい構成になることがあります。



学習目標から、必要な内容を分解する


学ぶ順番を考える前に、まずは学習目標へ到達するために必要な内容を分解します。

たとえば、学習目標を「顧客の課題を聞き取り、適切な製品機能を提案できる」と設定したとします。この目標を達成するには、製品機能を覚えるだけでは足りません。


学習者は、顧客が抱える代表的な課題と製品の主要機能を理解し、どの課題にどの機能が対応するのかを結びつける必要があります。さらに、利用条件や制約を踏まえて提案する機能を選び、その理由を顧客へ説明できなければなりません。


これだけの内容を一度に学ぶことは難しいため、教材ではいくつかの学習単位へ分けていきます。ただし、元資料のページ数や情報量に合わせて均等に分ければよいわけではありません。


一つの単元を終えたときに、学習者が何を理解し、何ができるようになるのか。その小さな到達点を意識して区切ることが重要です。教材の章や単元は、元資料の見出しを写したものではなく、最終的な学習目標へ向かう途中に置かれた、小さな学習目標でもあるのです。



前提となる知識から順番を考える


学習内容を分解したら、それぞれの内容がどのような関係にあるのかを確認します。ある内容を理解するために、先に何を知っておく必要があるのか。この問いから考えると、学ぶ順番の土台が見えてきます。


新しい受発注システムの操作を学ぶ場合を考えてみましょう。元の操作マニュアルでは、ログイン、メニューの説明、受注登録、在庫確認、出荷処理、売上計上というように、画面の操作順で説明されているかもしれません。


しかし、新任担当者が受注から売上計上までの業務全体を理解していなければ、一つひとつの操作を何のために行うのかが分かりません。その場合は、最初に業務全体の流れを示し、各工程で誰が何を行うのかを説明したうえで、受注登録や在庫確認などの個別操作へ進む構成が考えられます。


操作方法だけを先に覚えると、「どのボタンを押すか」は分かっても、「なぜその操作が必要なのか」が分からない状態になりがちです。業務の全体像を土台とし、その中に個別の操作を位置づけることで、手順の意味も理解しやすくなります。



全体像を見せてから、細部へ進む


学習内容を細かく分けるだけでは、断片的な知識が増え、全体のつながりを見失ってしまうことがあります。そこで必要になるのが、教材の冒頭で学びの見取り図を示すことです。

この教材で何を学ぶのか。それは実際の業務のどこに位置づけられ、これから学ぶ各単元はどのようにつながっているのか。最初に全体像が見えると、学習者は新しく得た情報をどこに位置づければよいか判断しやすくなります。


チャールズ・ライゲルースらが提唱した精緻化理論でも、学習内容を単純なものから複雑なものへ展開し、最初に全体を代表する基本的な考え方や課題を示すことが重視されています。最初からすべての詳細を説明するのではなく、まずは基本的な全体像をつかみ、そこへ条件や例外、応用を加えていく考え方です。



たとえば情報セキュリティ教材で、冒頭からパスワード、メール、端末、クラウドサービス、個人情報に関する規則を順番に並べると、それぞれが別々の注意事項に見えてしまいます。


最初に「会社の情報を、漏えい、改ざん、利用不能から守る」という全体の目的を示し、その後でメールや端末、クラウドサービスなど、情報を扱う場面ごとの判断へ進む構成にすれば、個々のルールが何を守るためのものなのかを理解できます。ルールの背景にある目的が分かれば、教材で扱っていない状況に直面したときにも、学習者が判断しやすくなります。



「簡単な内容から難しい内容へ」だけでは決められない


学習順序は、「簡単な内容から難しい内容へ進む」と説明されることがあります。基本的な考え方ではありますが、企業内教育では、何をもって簡単とするかを慎重に考える必要があります。説明する側にとっての基本情報が、初めて学ぶ人にとっても理解しやすいとは限らないからです。


製品に詳しい担当者は、機能の名称や仕様から説明するのが自然だと考えるかもしれません。しかし、新任の営業担当者にとっては、顧客がどのような場面で困っているのかを知るほうが、製品機能を理解する手がかりになることがあります。

この場合は、代表的な顧客像と課題を示した後、その課題が生じる理由を説明し、対応する製品機能を紹介する流れが考えられます。そこから適用できないケースや注意点へ進み、最後に複数の条件から適切な提案を選ぶ演習を行えば、顧客課題と製品機能を結びつけながら理解できます。


製品の機能一覧から始めるより、「誰の、どのような課題を解決する機能なのか」から始め

たほうが、学習者にとって理解しやすい場合があるのです。学習順序は、内容そのものの難易度だけでなく、学習者がすでに知っていることや、実際の業務で知識を使う流れも踏まえて決めます。



業務の順番と、学ぶ順番も同じとは限らない


業務マニュアルを教材化する場合、実際の業務手順に沿った構成が適していることもあります。しかし、業務の順番をそのまま学習順序にすれば、常に理解しやすくなるわけではありません。


たとえば、顧客から問い合わせを受け、内容を確認して回答し、対応記録を残す業務があるとします。実際の業務では、問い合わせを受けることが最初ですが、教材でいきなり問い合わせ対応の練習を始めても、適切な判断はできません。


どのような問い合わせがあるのか、自分で回答してよい範囲はどこまでか、どのような内容は他部署へ確認する必要があるのか。さらに、緊急性をどう判断するのかを理解したうえで、実際の対応手順へ進むほうが、一つひとつの行動の理由も分かります。

業務の流れは、教材構成を考える重要な手がかりです。ただし、その業務を行うために必要な判断基準や前提知識は、実際に使う場面より前に学べるようにする必要があります。



一つの単元に情報を詰め込みすぎない


元資料の一つの章に、多くの情報が含まれていることがあります。その章を教材でも一つの単元にすると、学習者は複数の新しい概念や手順を同時に処理しなければなりません。

人が一度に処理できる情報には限りがあります。認知負荷理論では、学習内容そのものの複雑さに加え、情報の見せ方や構成によって生じる不要な負荷を抑えることが重視されています。複雑な内容を適切な単位に分け、段階的に提示することは、学習者の理解を支える方法の一つです。



ただし、教材を短く細かく分ければよいわけでもありません。関連する説明を分割しすぎると、学習者は離れた情報を自分でつなぎ直さなければならなくなります。


たとえば、申請対象となる費用、必要な証憑、承認経路が相互に関係している場合、それぞれを別々の単元で説明すると、実際の申請に必要な判断を組み立てにくくなります。一つの単元には、一つの問いや判断を成立させるために必要な情報を、まとまりとして収めることが大切です。


「この単元を終えたとき、学習者は何を説明し、何を判断できるのか」。この問いに一文で答えられるかどうかが、学習単位を考える一つの目安になります。



単元と単元の間に、理解の橋を架ける


教材の構成では、各単元の内容だけでなく、単元同士のつながりも重要です。前の単元で学んだ内容が次の単元でどのように使われるのかが見えなければ、学習者には話題が突然切り替わったように感じられます。


たとえば、製品の基本機能を学んだ後に、顧客への提案方法を学ぶとします。この二つの間に「顧客の課題と各機能を対応させる」という単元を置けば、機能の知識を提案へつなげられます。基本機能を覚えた直後に提案演習へ進むよりも、身につけた知識をどのように使うのかを段階的に理解できます。


単元の終わりに、短いまとめや確認問題を置く方法もあります。ここでの確認問題は、用語を覚えたかどうかを確かめるだけのものではありません。次の単元へ進むために必要な理解ができているかを確認する役割を持ちます。


次の単元で複数の機能を比較するのであれば、その前に各機能の違いを説明できるかを確かめます。事例に応じた判断を求めるのであれば、判断基準を区別できるかを先に確認します。このように確認問題を単元間の接続点として使うことで、前の学びを次の学びへつなげやすくなります。



良い順番は、教材の目的によって変わる


教材の学習順序には、あらゆる内容へ適用できる一つの正解があるわけではありません。習得させたい知識や行動によって、適した順番は変わります。


操作を習得する教材であれば、基本操作から例外処理へ進む構成が考えられます。規程を学ぶ教材なら、規程の目的と原則を理解したうえで、具体的な判断場面や例外を扱うほうが分かりやすいでしょう。


製品知識を扱う場合は、顧客課題から製品の価値、主要機能、提案方法へ進むことができます。トラブル対応を学ぶ教材なら、まず正常な状態を理解し、異常の見分け方、原因の切り分け、対応方法、報告の流れへ進む構成が考えられます。


重要なのは、元資料の目次を守ることではありません。学習者がどのような順序で理解すれば、最終的な学習目標へ到達できるのかを考えることです。



AIは構成案を作れる。しかし、順序の妥当性には業務理解が必要になる


生成AIを使えば、元資料に含まれる情報を整理し、章や単元へ分け、教材構成の原案を作ることができます。関連する内容をまとめ、基礎から応用へ並べたり、各単元の見出しや到達点を提案したりすることも可能です。


一方、元資料だけをもとにした場合、その順序が実際の業務や学習者に適しているかまで、正確に判断できるとは限りません。


受講者はすでに何を知っていて、どの場面で間違いやすいのか。最初に全体像を示したほうがよいのか、それとも操作を体験してから説明を加えたほうが理解しやすいのか。さらに、どこまで受講者自身に判断させ、どの段階で上司や専門部署へ確認させるのかによっても、教材の構成は変わります。


AIが構成案を提示し、人が学習者や業務の実態に照らして妥当性を確認する。必要であれば実務担当者にも、どこで迷いやすいのか、どのような順番で教えると理解しやすいのかを聞きます。


この組み合わせによって、元資料のページ順をなぞるだけではない、業務で使える知識へ向かう教材構成を作ることができます。



教材の構成は、学習者の理解を導く道筋になる


社内資料には、すでに情報の並びがあります。しかし、その並びは、資料が作成された目的に合わせたものです。教材では、学習者が何を知り、何を理解し、何を判断できるようになるのかを基準に、情報を並べ直します。


そのためには、まず学習目標を必要な要素へ分解し、それぞれの前提となる知識を確認します。そのうえで、全体像から細部へ、基本的な内容から条件や例外へと学びを進め、単元同士が自然につながるように設計します。さらに、次の単元へ進むために必要な理解を確認問題で確かめることで、社内資料に含まれる情報は、単なる説明の集まりではなく、理解が段階的に積み上がる学習体験へ変わります。


教材の目次は、元資料を整理した結果ではありません。学習者を現在地から学習目標まで導くために設計された道筋なのです。



次回の記事


次回の「社内知識の教育資産化」シリーズでは、一つひとつの単元を、どのように学習コンテンツへ組み立てるかを取り上げます。


説明文を並べるだけでなく、事例や問いかけ、確認問題をどのように組み合わせれば、学習者が考えながら理解できるのか。資料に書かれた情報を、学習者が自分の業務へ結びつけられる形に変える方法をご紹介します。



社内資料の教材化を検討している方へ


アドップ・コンテキストが開発する「コンテキストAI」は、企業が持つPowerPointやPDFなどの社内資料をもとに、学習コンテンツの作成を支援するサービスです。


資料に含まれる知識の整理から、学習目標、教材構成、説明文、確認問題の原案作成までを支援し、既存の社内知識を、従業員が学び、業務に生かせる形へ変えていきます。


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