説明を並べるだけでは、学習コンテンツにならない
- Adop-Context

- 7 時間前
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本記事は、企業内に蓄積された資料や経験を、従業員が学び、判断や行動に生かせる形へ変える「社内知識の教育資産化」シリーズです。
前回の記事では、社内資料のページ順をそのまま教材へ移すのではなく、学習者の理解が積み上がる順序へ組み替える「シーケンス設計」についてご紹介しました。学習目標を達成するために必要な知識を分解し、全体像から細部へ、基本から条件や例外へと学びを進める考え方です。
教材全体の順序が決まったら、次は、一つひとつの単元を学習コンテンツとして組み立てます。しかし、元資料の文章を短く要約し、スライドへ配置するだけでは、情報は整理できても、学習者が考え、判断できる教材にはなりません。
一つの単元の中にも、学習者を「知る」から「分かる」、そして「使える」へ導く流れが必要です。
情報を伝えることと、学べる状態をつくることは違う
社内資料を教材化するとき、最も取り組みやすいのは、資料に書かれた内容を要約して説明することです。規程であれば重要な条文を抜き出し、業務マニュアルであれば操作手順を簡潔にまとめ、製品資料であれば機能や特徴をスライドへ配置します。
これによって、情報は読みやすくなります。しかし、内容を読んだことと、実際の場面で使えることは同じではありません。
たとえば、経費申請の規程に「一定金額以上の支出には事前承認が必要」と書かれていたとします。学習者がこの文章を読んで理解したつもりになっても、出張先で急きょ備品を購入した場合や、複数の支出をまとめて申請する場合に、事前承認が必要かどうかを判断できるとは限りません。
業務で必要になるのは、規程の文章を覚えることではなく、自分が直面した状況と規程を結びつけて判断することです。そのため教材では、説明を提示するだけでなく、「この知識はどのような場面で使うのか」「条件が変わると判断はどう変わるのか」を考えられるようにします。
単元の出発点は、説明したい内容ではなく到達点に置く
一つの単元を組み立てる際も、最初に確認するのは学習目標です。ただし、教材全体の大きな目標ではなく、その単元を終えた時点で何ができるようになってほしいかを具体的にします。
たとえば、「情報セキュリティについて理解する」では、どのような内容を扱い、何をもって理解したと判断するのかが分かりません。「不審なメールの特徴を見分け、開かずに所定の窓口へ報告できる」とすれば、単元に必要な説明や事例、確認問題を考えやすくなります。
ここで重要なのは、単元の中へ関連情報をできるだけ多く入れることではありません。到達点に必要な情報を選び、学習者がその情報を使う機会まで設計することです。
不審なメールを見分けることが目標なら、サイバー攻撃の歴史を詳しく説明する必要はないかもしれません。一方で、送信元、件名、リンク先、添付ファイル、本文の不自然さなど、実際の判断に使う観点は欠かせません。何を教えるかは、何ができるようになってほしいかによって決まります。
事例は、知識と業務を結びつける
学習者が知識を自分の業務へ結びつけるには、説明だけでなく、その知識が使われる具体的な場面を示すことが有効です。
たとえば、問い合わせ対応の教材で「契約内容に関する質問は営業担当へ確認する」と説明するだけでは、実際にどの問い合わせが該当するのか判断しにくいことがあります。そこで、次のような場面を示します。
ある顧客から、「現在の契約では利用者を何人まで追加できますか。来月から別部署でも使いたいと考えています」という問い合わせが届きました。担当者は管理画面で現在の利用者数を確認できますが、契約上の追加可能数については確認できません。
この事例があれば、学習者は、どこまで自分で確認し、どの時点で営業担当へつなぐべきかを具体的に考えられます。説明されたルールが、業務上の判断へ変わるのです。
事例は、単なる読み物や雰囲気づくりではありません。学習目標で定めた判断や行動を、実際に近い文脈の中で試すための材料です。そのため、登場人物や状況を細かく描写することよりも、判断に必要な情報と、迷いが生じる条件を含めることが重要になります。
問いかけによって、学習者を説明の受け手から変える
事例を示しても、その直後に正解を説明してしまうと、学習者は内容を読むだけで終わります。そこで、説明の途中に問いかけを置き、いったん自分で考える時間をつくります。
先ほどの問い合わせ事例であれば、「あなたが担当者なら、最初に何を確認しますか」「この問い合わせに自分で回答してよいでしょうか」と問いかけることができます。
ここで必ずしも、複雑な記述式問題を作る必要はありません。選択肢から対応を選ぶ、複数の情報から確認すべき項目を選ぶ、自分なりの判断を頭の中で考えるといった短い活動でも、学習者は説明の受け手から、知識を使う側へ移ります。
講義を受けるだけでなく、学習者自身が答えを生成したり、考えを説明したりする活動を取り入れることは、学習への認知的な関与を高めると考えられています。教育活動を受動的、能動的、生成的、相互作用的な関与に分類したICAPの枠組みでも、学習者が新たな考えや説明を生み出す活動は、提示された情報を受け取るだけの活動より深い学習につながると整理されています。
問いかけの役割は、学習者を試して緊張させることではありません。説明を読む前後に、自分が何を理解し、どこで迷っているのかを意識できるようにすることです。
答えだけでなく、判断の理由をフィードバックする
問いかけや確認問題を置く場合、正解と不正解だけを表示しても、十分な学習にはなりません。学習者が知りたいのは、なぜその答えになるのか、自分の判断のどこを見直せばよいのかという点です。
問い合わせ事例で「営業担当へ確認する」が正解だった場合も、「正解です」だけでは、別の問い合わせへ知識を応用しにくくなります。
「利用者の追加可能数は契約条件によって異なり、担当者が参照できる管理画面だけでは確定できないため、営業担当へ確認します。ただし、確認を依頼する前に、現在の利用者数と追加予定人数を整理しておくと、その後の対応が円滑になります」と説明すれば、学習者は判断基準と行動の順序を理解できます。
不正解の選択肢についても、その対応が常に間違っていると説明するのではなく、どの条件であれば適切になるのかを示すと理解が深まります。業務上の判断は、単純な正誤ではなく、状況や条件によって変わることが多いためです。
教材におけるフィードバックは、正解を知らせるためだけのものではありません。学習者の考え方と、業務で求められる判断基準とのずれを修正する役割を持っています。
確認問題は、学習の最後に付ける付属品ではない
教材制作では、先に説明スライドを作り、最後に数問のクイズを追加する流れになりがちです。しかし、確認問題は、学んだ内容を採点するためだけに置くものではありません。思い出そうとする行為そのものが、学習内容の定着を促します。
KarpickeとRoedigerの研究では、学習内容を繰り返し読むよりも、学んだ内容を思い出す検索練習を行うことが、長期的な保持に重要な役割を果たすことが示されています。
そのため確認問題は、単元の最後だけでなく、説明の途中にも配置できます。前半で学んだ判断基準を思い出して事例へ適用する、複数の対応から適切なものを選ぶ、誤った対応の理由を考えるといった使い方です。
オンライン講義の途中に短いテストを挟んだ実験では、学習内容の保持だけでなく、注意の逸脱を抑える効果も報告されています。Interpolated Memory Tests Reduce Mind Wandering and Improve Learning of Online Lectures
ただし、問題数を増やせばよいわけではありません。単元の到達点が「判断できること」であれば、用語の穴埋め問題だけを並べても十分ではないでしょう。学習目標と同じ種類の行動を、問題の中でも求めることが大切です。
一つの単元に、小さな学習体験をつくる
一つの単元は、説明、事例、問いかけ、フィードバック、確認問題をすべて同じ順番で配置すればよいわけではありません。学習内容や受講者の経験によって、適した組み立て方は変わります。
初めて学ぶ規程であれば、目的と基本原則を説明した後に、判断しやすい事例から取り組み、徐々に条件の異なる事例へ進む構成が考えられます。経験のある担当者向けであれば、最初に迷いやすい事例を示して判断を求め、その後に規程や判断基準を振り返る構成も有効です。
操作を学ぶ教材では、完成した手順を事例として示した後、一部の手順を学習者に選ばせ、最後に一連の操作を行わせる方法があります。初心者がいきなり問題を解くより、最初に適切な解き方や手順を示す「ワークド・エグザンプル」は、問題解決時の不要な認知負荷を抑える方法として研究されています。The Effects of Example-Free Instruction and Worked Examples on Problem-Solving
重要なのは、説明用のスライドを何枚作るかではありません。学習者が何を知り、どこで考え、どのようなフィードバックを受け、最後に何をできるようになるのか。その一連の流れが、一つの単元の中に成立していることです。
AIは説明や問題を生成できるが、良い単元は部品の数では決まらない
生成AIを使えば、元資料から説明文を作り、事例や問いかけ、選択式の確認問題を生成できます。正解の解説や不正解時のフィードバックを作成することもできます。
一方で、説明文、事例、クイズがそれぞれ作られていても、同じ学習目標へ向かっていなければ、単元としてはまとまりません。説明ではルールの暗記を求め、事例では例外的な状況を扱い、確認問題では用語の意味だけを問うような構成では、学習者が何を身につけるべきなのかが曖昧になります。
AIが作成したコンテンツを確認する際は、文章の自然さや問題の正誤だけでなく、それぞれが単元の到達点へどのようにつながっているかを見る必要があります。
この説明を理解すれば、事例を判断できるのか。問いかけは、学習者に使ってほしい知識を呼び起こしているか。フィードバックは、別の場面でも使える判断基準を示しているか。確認問題は、学習目標で求めた行動を確かめているか。
こうした観点で整えることで、AIが生成した個別の素材を、一つの学習体験へまとめられます。
教材化とは、情報の間に学習者の思考を組み込むこと
社内資料には、業務に必要な情報が書かれています。しかし、その情報を説明用のスライドへ移しただけでは、学習者は内容を読んで終わってしまうかもしれません。
学習コンテンツでは、単元の到達点を定め、その達成に必要な説明を選びます。さらに、知識が使われる事例を示し、問いかけによって考える機会をつくり、判断の理由をフィードバックします。最後に、学習者が自分の力で知識を思い出し、別の場面へ適用できるかを確認します。
説明、事例、問いかけ、確認問題は、教材へ付け足す別々の部品ではありません。学習者を「知っている」状態から、「考えて使える」状態へ導くためにつながった設計です。
社内資料を教材へ変えるとは、情報を短く、見やすくすることだけではありません。情報と情報の間に、学習者が考え、判断し、理解を確かめる過程を組み込むことなのです。
次回の記事
次回の「社内知識の教育資産化」シリーズでは、PowerPointで作られた研修資料を取り上げます。
社内研修で使われてきたPowerPointには、講師の説明や経験、参加者とのやり取りを前提としているものが少なくありません。その資料をそのまま配信するだけでは、講師が担っていた説明や問いかけが失われてしまいます。
PowerPoint研修を、一度きりの説明資料から、繰り返し活用できる教育資産へ変えるには何が必要なのかをご紹介します。
社内資料の教材化を検討している方へ
アドップ・コンテキストが開発する「コンテキストAI」は、企業が持つPowerPointやPDFなどの社内資料をもとに、学習コンテンツの作成を支援するサービスです。
資料に含まれる知識の整理から、学習目標、教材構成、説明文、事例、確認問題の原案作成までを支援し、既存の社内知識を、従業員が学び、業務に生かせる形へ変えていきます。




