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研修担当者がいちばん困っていること──「何を教えればいいかわからない」問題

はじめに


「何を教えればいいか、わからないんです」

人事・研修担当者と話すと、この言葉が繰り返し出てきます。研修をやらなければいけないことはわかっている。でも、何から手をつければいいのか、誰に何を教えるべきなのか、どのレベルまで教えれば十分なのか──その答えが出ないまま、時間だけが過ぎていく。

これは、担当者の能力の問題ではありません。「何を教えるか」を決めるための仕組みが、そもそも存在しないことから生まれる問題です。



「何を教えるか」はなぜ難しいのか


研修の内容を決めることが難しい理由は、大きく3つあります。


正解が見えない

製品の仕様や法令のように、「これが正解」と言い切れるものと違い、「誰に何を教えるか」には唯一の正解がありません。業種・職種・受講者のレベル・会社の状況によって、最適な答えは変わります。正解のない問いに向き合い続けることは、専門知識のない担当者にとって、心理的な負荷が非常に高い作業です。


教える側の知識が言語化されていない

「何を教えるか」を決めるには、まず「組織の中に何の知識があるか」を把握する必要があります。しかし前回の記事で取り上げたように、ベテランの知識の多くは暗黙知として頭の中に留まっており、一覧化されていません。地図のない場所を設計しようとしているような状態です。


優先順位がつけられない

教えるべきことは無数にあります。新入社員には業界知識も、業務手順も、社内ルールも、コミュニケーションの作法も必要です。しかし時間は有限で、何から教えるべきかの優先順位を決める基準が担当者には与えられていません。



「とりあえず」で選ばれるコンテンツの限界


「何を教えればいいかわからない」という状態に陥ったとき、担当者がとりがちな行動があります。

市販の研修パッケージを購入する。外部講師に「うちの業界向けにお願いします」と丸投げする。あるいは、前任者が使っていた資料をそのまま使い続ける。

これらの選択に共通しているのは、「自社に何が必要か」という問いに答えていないことです。

市販のコンテンツは汎用的に設計されているため、自社の業務・文化・課題との接点が薄くなります。受講者は「これ、うちの仕事と関係あるの?」と感じ、学習が自分ごとになりません。前任者の資料は、その時点での課題に対応したものであり、現在の組織の状況や受講者のレベルに合っているとは限りません。

「とりあえず」で選ばれたコンテンツは、受講者にとっても「とりあえず」の学びにしかなりません。



「何を教えるか」を決めるための3つの問い


では、「何を教えるか」はどうやって決めればいいのでしょうか。難しく考える必要はありません。次の3つの問いに順番に答えることで、輪郭が見えてきます。


問い1:この受講者は、今何ができていないのか

研修は「できないことをできるようにする」ためのものです。出発点は、受講者の現在地を把握することです。「新入社員が最初の3ヶ月で躓くのはどこか」「中途採用者が自社の業務に馴染むのに時間がかかるのはなぜか」という観察が、教えるべき内容の最初のヒントになります。


問い2:この研修の後、受講者に何ができるようになってほしいか

ゴールが定義されていない研修は、到達点のないマラソンです。「この研修を終えたとき、受講者はどんな業務を、どの程度のクオリティでこなせるようになっているか」を具体的に言語化することで、教えるべき内容の範囲が決まります。


問い3:そのギャップを埋めるために、何を・どの順番で学ぶ必要があるか

現在地とゴールが明確になれば、その間にある「ギャップ」が見えます。そのギャップを埋めるために必要な知識・スキルを洗い出し、習得しやすい順番に並べる。これが教育設計の本質です。


この3つの問いは、インストラクショナルデザインの基本フレームワークを平易に言い換えたものです。専門知識がなくても、この順番で考えれば「何を教えるか」の骨格は作れます。



それでも「設計」に時間をかけられない現実

3つの問いは理解できる。でも実際にやってみると、時間がかかる。それが多くの担当者の正直な感想です。


受講者の現在地を把握するには、現場へのヒアリングが必要です。ゴールを定義するには、上位職や経営層との議論が必要です。ギャップを埋めるコンテンツを作るには、素材の収集・整理・構成という工程が必要です。

加えて、教える側にも「設計は不要」という無意識の前提が存在しています。実際の現場から、こんな声を聞きました。


「資料を読めば、わかるだろう。わからないところを質問してもらえば済む話」


「やりながら教えたので、あとは一度やってみれば、腹落ちするだろう」


「目的を理解すれば、私のやり方にこだわらなくても、できるだろう」


これらの言葉に共通しているのは、「教育設計は必要ない」という認識です。しかしこの前提こそが、研修が機能しない最大の原因のひとつです。「読めばわかる」「やれば腹落ちする」「目的さえ伝えればいい」──いずれも、受講者の学習プロセスを設計していません。兼任で研修業務を担う担当者にとって、教える側のこの認識を変えながら設計を進めることは、二重の意味で難しい作業です。



「設計」をAIが担う、という選択肢


「何を教えるか」の設計は、専門知識と時間を要する作業です。しかし裏を返せば、この設計プロセス自体を自動化できれば、担当者の最大の悩みは解消されます。


社内資料──業務マニュアル、商品説明書、過去の研修資料、ベテランが書いたノウハウメモ──には、「教えるべき知識」の原石が埋まっています。それらの資料から概念・手順・暗黙知を自動的に抽出し、受講者のレベルに合わせて「何を・どの順番で・どう教えるか」を設計する。


この工程をAIが担うことで、担当者は「設計者」ではなく「レビュアー」として関わることができます。ゼロから考える必要はありません。AIが出した設計の骨格を確認し、現場の感覚で微調整する。それだけで、自社に即した教育コンテンツが完成します。



まとめ


「何を教えればいいかわからない」という問題の本質は、担当者の能力ではなく、教育設計のプロセスが組織の中に存在しないことにあります。

現在地・ゴール・ギャップという3つの問いで骨格は作れます。しかしその先の「コンテンツ化」まで一人でやり切ることは、兼任担当者には現実的に難しい。だからこそ、設計プロセスそのものを支援する仕組みが必要です。



次回予告


次回からはSeries 2「AIで教育設計は変わるのか」に入ります。第1回は「AIが『何を教えるか』を決める時代──教育設計の自動化とは何か」を取り上げます。

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